2009年05月09日




糖尿病入院日記 第12話

体重測定、そしてインスリン注射という朝の日課にも次第に慣れて来て当初、とても抵抗があった自分で注射するという行為も苦痛には感じなくなってきた。人間、慣れるのは早いものです。

やっと点滴から開放された事がとにかく嬉しくて一気に行動範囲も広がった。血糖値もかなり下がって来たので体調も良いし、とにかく何不自由なく病院内を移動出来るのが最高です。

私は読書が好きなので入院生活自体はさほど苦痛にはならないけど、娘に会えないのは辛かった。院内感染の心配もあるので病院には連れて来ない様にしていたので電話で話をするくらいしか出来ない。話をすると言っても未だ言葉はしゃべれないので会話にはならないけども、その息遣いや奇声を聞くだけで幸せです。

入院した事は社内の人間しか知らせていないし、親には検査入院としか知らせていない。社内の人間には私の見舞いに来るよりも仕事に精を出して欲しいと言っていたので誰も見舞いに来る事は無い。

ベッドに腰を降ろして読書をしていたら「社長っ」という声が聞こえたので声の主に目をやると証券会社の支店長と課長が大きな花束を抱えて入り口に立っていた。

入院して最初の訪問者だった。

気心の知れた人達なので部屋の外で会話が弾んだ。何故、入院の事を教えてくれなかったのかと言われたけど病名を聞く様な野暮な人達ではないので助かった。聞きたい思いはヤマヤマだっただろうけど。

彼らが帰り病室に戻ると、向かい側の患者さんが話し掛けてきた。

「あなたは社長さんなの?」
「はい。小さい会社ですよ。」
「二代目?」
「いいえ 自分で創業しました」
「へえー」

その時、彼の見舞い客が来た。以前に来た若くて美人の女性だった。相変わらず美しい人だ。しかも知的な雰囲気に包まれた人で、一際、目立つ存在。

彼は彼女が来ても私との会話をやめようとはぜずに、逆に、彼女に私の事を紹介し始めた。

彼女の美しい大きな瞳が私を見詰めた瞬間、吸い込まれそうな気分になった。(なんて魅力的な人なんだろう)

私は性格的に浮気など絶対出来ないタイプだし、そういう行為は卑劣だとさえ思っているけど、こういう女性だったら少しだけ気持ちがぐらつくかもしれない。

彼が相変わらず私に話しかけてくるので、「ちょっと電話をしなければならないので」と言って病室を出た。

1回まで降りて売店で飲み物を買い、喫煙ルームでタバコを吸った。担当医や看護婦さんからはタバコは吸ってはいけないと言われていたけど、これだけは止める事が出来ない。

部屋に直ぐ戻ると臭いでばれてしまうので少し時間を置いて病室に戻った。すると例の男性が「看護婦さんが探してましたよ。会社に電話をしに行ったと言っておきましたから」とウインクした。

どうも、私がタバコをポケットに入れるのを見ていたらしい。

彼が言い終わるかどうかという時にすぐに看護婦さんがやって来た。




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2009年04月25日




糖尿病入院日記 第11話

朝の回診で担当医から2つの話があった。1つは食後に軽い運動療法を始めるという事、もう1つは糖尿病教室に出席してくださいという事だった。

相変わらず無機質でロボットみたいに人間らしさを感じない担当医だけど「明日から運動療法を始める」という話があった時にはうれしくて投げキッスを送りたい心境だった。

やっと外の空気が吸える。。。

しかも、この運動療法は私が毎日ベッドから眺めている公園を歩くという事なのでワクワクした。病院独特の薬品臭が漂う空間から一時の間ではあるけど開放されて草木の香りを嗅ぐ事が出来るのは想像するだけで楽しみ。

回診が終わって眼下の公園を眺めていると向かい側の患者さんが私に話しかけてきた。

「良かったですね。明日から外に出れて」

「はい ありがとうございます。」

よく考えると彼は全く外には出ていないし、身体の状態は決して良くない事は一見しただけで分かる。この病室は糖尿病患者だけだという認識を持っていたけど彼は糖尿病だけで入院している様には見えない。

病名を聞くのも失礼だと思って、少し探りを入れてみようかなと考えていたら彼の方から自分の病名などを話し出した。

「あなたみたいな若い人が、しかも全然太っていない人が糖尿病だというのには驚きましたよ。私なんか糖尿病も悪いし肝臓もやられているので、もう長くないと思ってるんだよね。あなたもキチンと治療して治さないと先々が大変だよ。」

「肝臓が悪いのですか?」

「ええ、酒の飲み過ぎでかなり悪いんですよ。時々、肝臓が凄く痛くなるんです。まあ、今まで好き勝手に生きて来たから後悔はしてないですけどね」

この病室では患者同士で話をするという風景を全く見ないし、他の患者さんは話し掛ける隙が無い人ばかりなので、彼にとっては私は格好の話し相手に映った様で、よく私に話しかけて来る。

かなり裕福な人の様でパジャマは高価なシルク、ガウンも高そうなものを着ている。シルクのパジャマは安いものもあるけど、その手のものは直ぐにシワになるが、彼のパジャマは本物のシルクなので全くシワがない。時計はロレックスと思われるし、どことなく金持ち独特の匂いがする。

ただ、眼光の鋭さや落ち着き払った言動、そして先日お見舞いに来ていた若い美人の女性、それらからすると、少しヤバイ筋の人かもしれないと思えた。

私の様な若造に丁寧語を使うというのも、そういう思いを強くさせた。丁寧な言葉遣いをしながらも声はかなりドスが効いているし存在感があるタイプなので、そういう筋の人なら幹部なんだろうなぁと勝手に妄想を膨らませていた。




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2009年04月18日




糖尿病入院日記 第10話

朝7時過ぎになると看護婦詰め所の前に出向いて血糖値を測ったり体重測定を行い、最後にインスリン注射をして朝食を摂るわけですが、私は初めてなので看護婦さんからインスリン注射の打ち方を教えてもらう事になりました。

レクチャーの前に他の人がインスリン注射を行っているのを見ると、手馴れた様子で、いとも簡単にサッサッと注射を済ませて部屋に戻っていきます。

(そうか、そんな感じでやるんだな。。。)

手順なんかは簡単そうだし、みんな何の抵抗も無く朝の日課みたいな感じで談笑しながら注射しているので慣れるとどうって事ないんだなと思った。

皆が詰め所から病室に戻り私1人になった頃に詰め所から看護婦さんが出て来た。「初めてでしたよね。最初はとまどいがあるかもしれませんが、慣れると簡単ですし抵抗も無くなりますからね。」

注射の打ち方のレクチャーが始まったけど、さっき打っていた人の仕草を見ていたのでやり方だけは完璧に頭に入った。

「さあ、それじゃ、打ってみましょうか」

「はい」

消毒液を浸した脱脂綿で腹を拭いて指で腹をつまんで注射針を刺そうとした途端、動きが止まってしまった。

「大丈夫ですよー」と看護婦さんの声。

何故か、どうしても針を刺す事が出来ない。注射は日頃から何の抵抗もなかったし痛いと思った事もない。採血をする時でも自分の赤い血が吸い込まれていくところをジッと見詰めるタイプなので怖いと感じた事もない。

しかし、自分で自分自身の腹に注射針を刺すという行為にどうしても抵抗感を感じずにはいられず、刺す寸前までは行くのだけど最後の一押しが中々出来ない。(おれは何をためらってるんだ。)明日のジョーじゃないけど「打て、打つんだ! 早く!!」みたいな感じで。。。

やっと打つ事が出来た。

インスリン注射は針がとても細いので、ほとんど痛みは無くて、打った場所を見ると微かに滲んだ赤い点が残っているだけだった。

何度も打つ内に少し慣れて来て抵抗感は薄まっては来たけど、それは薄まったというだけの話でやはりどうしても抵抗感が拭えない。自分で自分の身体に注射をするという特殊な行為に対する感覚というか感情というか、そういう事は実際にやった人でなければわからないと思う。

(これを一生続けるのかぁ・・・)

複雑な思いを抱きつつ、とにかく血糖値を下げる事に専念するしかないと思い直した。とにかく、早く点滴が終わって欲しい。点滴が終わらないと散歩も出来ないしトイレに行くのも難儀だし、なんといっても鬱陶しい。

朝食を済ませてベッドに腰を降ろして眼下の公園を眺めると、この時間にしては人通りが少ない。よく考えると今日は土曜日だった。都市の一番の繁華街でありオフィス街の中心に立地している病院なので土日になると朝の風景は一変する。

(外の空気が吸いたいなぁ。)そんな事を考えながら外をぼんやりと見ていると朝の回診の時間になっていた。




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2009年04月12日




糖尿病入院日記 第9話

点滴を新しいものに取り換える時に、翌日から朝食前に血糖値の検査をする事になると告げられた。午後に、これからの入院治療のスケジュールについて具体的なガイダンスがあるという事だった。

午後になると看護婦さんと医師が私の元を訪れ、現状と今後の治療方針に関してのレクチャーが行われた。

入院当初の血糖値が540だった事、そして今現在も依然として高くて320もあるという事。いずれも食前血糖値なので、依然としてかなり高く、安静を要するという事だった。

本来であれば運動療法を取り入れるところだが、血糖値の高さを考慮すると運動療法は血糖値がもう少し下がってから開始し、今はインスリンによる治療と安静を優先するという事だった。

一通り説明が終わると医師はこう言った。「今までは看護婦が腕にインスリン注射をしていましたが明日からインスリン注射を自身でやってもらいます。症状からしてインスリン注射を続けることになります。」

「先生、インスリン注射は一時的に行って、改善すれば別の治療法を行うという風に解釈して宜しいのでしょうか?」

私の質問が終わるか終わらないかの内に「難しいでしょうね。一生、インスリンを打ってもらうことになるでしょうね。」

「血糖値を下げる努力は怠りませんので、最初はインスリン注射をしながら改善すればインスリンを止める方向で検討してもらえませんか?」

「食前血糖値が540もあったんですよ。今だってインスリン注射を何本も打って320もあるんですから無理だと思いますよ。」

冷ややかに、こう告げられて多少ムカッとした。仮にそれが現実だとしても、もっと、言い方というものがあるだろう?初っ端から夢を打ち砕く様な言い方をしなくてもいいだろう?「現状は厳しいけどインスリン注射が一時的なもので済むように頑張りましょうね。」くらい言えばいいのにと思った。

「では、詳細については看護婦から説明がありますので」そう言うとそそくさと出て行った。

私の苛立ちが顔に出ていたせいか、医師が出て行くと看護婦さんが「とにかく血糖値が下がる様に頑張りましょう。血糖値が正常値に戻ればインスリンも打たなくて済みますから。何とか頑張って下げましょう。私達も精一杯サポートしますから。」

この看護婦さんの一言で少しは気も晴れたけど、あの主治医の言い方や表情を思い出すと腹立たしさが中々消えなかった。絶対に血糖値を下げてあの医者を見返してやると闘志が湧いてきた。




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2009年04月04日




糖尿病入院日記 第8話

眠りから覚めると誰かが私の腕を揺すっていた。ぼんやりした状態で揺する主を見ると、私の向かい側の患者だった。

「朝ごはんがきてますよ 早く食べないとおばちゃんに下げられますよ」
「・・・・・・・」
ベッドの横に、いつの間にか朝食が置かれていた。
「あっ ありがとうございます」

私は食い意地が張っているので、どんなに体調が悪くても精神的に辛い事があっても食欲だけは落ちた事がありません。強烈な胃の痛みがある時でも、痛い 痛いと言いながら完食するくらいですから、血糖が高くても完食です。

それにしても、この点滴、どうにかならないものか。昨夜からずっと続けているので腕がひんやりしているし、ズーンとした重さを感じる。注射は全く気にならないけど点滴はどうも苦手だ。

点滴の量が少なくなってナースコールを押すタイミングを計っていたら看護婦さんがやって来た。夕べの看護婦さんとは違うので夜勤と交替したと思われるが、随分、笑顔がきれいで優しそうな人だ。

「おはようございます。少しは気分はよくなりましたか?夕べは随分血糖値が高かったみたいですね。食事は食べれましたか?」
「はい」
「それは良かったですね。じゃあ血圧測りますね。」
「あのー 看護婦さん 点滴はこれで終わりでしょうか?」
「今日は3本することになりますね。ちょっと辛いでしょうが頑張ってくださいね。」
「そうですか。3本ですね。」まあ仕方ないや。。。

やがて回診が始まった。なんか偉そうな先生と若手の医師が数人付いて来て私を取り囲むようにして皆が私に視線を投げ掛ける。

回診が終わってしばらくすると1人のお医者さんと看護婦さんがやって来た。主治医という事らしいが、無機質な表情と無機質なしゃべり方で、まるでロボットと会話している様だった。

まあ、賢そうな顔をしているけど、どこかエリート意識が高そうで苦手なタイプだなぁと思った。ジョークを飛ばしても全く通じそうにないタイプだと自信を持って言える。

まあ、お医者さんとは1日1〜2回しか顔を合わせる事はないだろうし、看護婦さんと接する事がほとんどだから、「まっ イイかぁ」みたいな感じで。




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